かけ》るべき術《すべ》をのみ
願ふ心のなかれとて
黒髪《くろかみ》長き吾身こそ
うまれながらの盲目《めしひ》なれ
芙蓉《ふよう》を前《さき》の身とすれば
泪《なみだ》は秋の花の露
小琴《をごと》を前《さき》の身とすれば
愁《うれひ》は細き糸の音
いま前《さき》の世は鷲の身の
処女にあまる羽翼《つばさ》かな
あゝあるときは吾心
あらゆるものをなげうちて
世はあぢきなき浅茅生《あさぢふ》の
茂れる宿《やど》と思ひなし
身は術《すべ》もなき蟋蟀《こほろぎ》の
夜《よる》の野草《のぐさ》にはひめぐり
たゞいたづらに音《ね》をたてて
うたをうたふと思ふかな
色《いろ》にわが身をあたふれば
処女のこゝろ鳥となり
恋に心をあたふれば
鳥の姿は処女にて
処女ながらも空《そら》の鳥
猛鷲《あらわし》ながら人の身の
天《あめ》と地《つち》とに迷ひゐる
身の定めこそ悲しけれ
おさよ
潮《うしほ》さみしき荒磯《あらいそ》の
巌陰《いはかげ》われは生れけり
あしたゆふべの白駒《しろごま》と
故郷《ふるさと》遠きものおもひ
をかしくものに狂へりと
われをいふらし世のひとの
げに狂はしの身なるべ
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