磊落に笑出した。学士の肩へ手を掛けて、助けて行こうという心づかいを見せたが、その人も大分上機嫌で居た。
よろよろした足許で、復た二人は舞うように出て行った。高瀬は屋外《そと》まで洋燈《ランプ》を持出して、暗い道を照らして見せたが、やがて家の中へ入って見ると、余計にシーンとした夜の寂寥《さびしさ》が残った。
何となく荒れて行くような屋根の下で、その晩遅く高瀬は枕に就いた。時々眼を開いて見ると、部屋の中まで入って来る饑《う》えた鼠の朦朧と、しかも黒い影が枕頭《まくらもと》に隠れたり顕れたりする。時には、自分の身体にまで上って来るような物凄《ものすご》い恐怖に襲われて、眼が覚めることが有った。深夜に、高瀬は妻を呼起して、二人で台所をゴトゴト言わせて、捕鼠器《ねずみとり》を仕掛けた。
その年の夏から秋へかけて、塾に取っては種々な不慮の出来事があった。広岡学士は荒町裏の家で三月あまりも大患《おおわずら》いをした。誰が見ても助かるまいと言った学士が危く一命を取留めた頃には、今度は正木大尉が倒れた。大尉は奥さんの手に子供衆を遺し、仕掛けた塾の仕事も半途で亡くなった。大尉の亡骸《なきがら》は士
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