へ遊びに行って来ました」
 とお島は夫に話して、復た乳呑児の顔を眺めた。その児は乳房を押えて飲むほどに成人していた。
「俺《おん》にもおくれやれ」と鞠子は母が口をモガモガさせるのに目をつけた。
「オンになんて言っちゃ不可《いけない》の。ね。私に頂戴ッて」
 お島はなぐさみに鯣《するめ》を噛《か》んでいた。乳呑児の乳を放させ、姉娘に言って聞かせて、炉辺《ろばた》の戸棚の方へ立って行った。
「さあ、パン上げるから、お出《いで》」と彼女は娘を呼んだ。
「ううん、鞠ちゃんパンいや――鯣」
 と鞠子は首を振ったが、間もなく母の傍へ行って、親子でパンを食った。
「鞠ちゃんにくれるくれるッて言って、皆な母ちゃんが食って了う」と鞠子は甘えた。
 この光景《さま》を笑って眺めていた高瀬は自分の方へ来た鞠子に言った。
「これ、悪戯《いたずら》しちゃ不可《いけない》よ」
「馬鹿、やい」と鞠子はあべこべに父を嘲《あざけ》った。――これが極く尋常《あたりまえ》なような調子で。
 高瀬は歎息して奥へ行った。お島が茶を入れて夫の側へ来た時は、彼は独り勉強部屋に坐っていた――何事《なんに》もせずに唯、坐っていた。

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