りか》を知ったことを思出した。彼は都会の人の知らない蜂の子のようなものを好んで食ったばかりでなく、田圃側に葉を垂れている「すいこぎ」、虎杖《いたどり》、それから「すい葉」という木の葉で食べられるのを生でムシャムシャ食ったことを思出した。
高瀬の胸に眠っていた少年時代の記憶はそれからそれと復活《いきかえ》って来た。彼は幾年となく思出したことも無い生れ故郷の空で遠い山のかなたに狐火の燃えるのを望んだことを思出した。気味の悪い夜鷹《よたか》が夕方にはよく頭の上を飛び廻ったことを思出した。彼は初めて入学した村の小学校で狐がついたという生徒の一人を見たことを思出した……
学士が窓のところへ来た。
「広岡先生の御国はどちらなんですか」と高瀬が聞いた。
「越後」
と学士は答えた。
昼過に高瀬が塾を出ようとすると、急に門の外で、
「この野郎|打殺《ぶちころ》してくれるぞ」
と呼ぶ声が起った。音吉の弟は人をめがけて大きな石を振揚げている。
「あれで、冗談ですぜ」
と学士もそこへ来て言って、高瀬に笑って見せた。
荒い人達のすることは高瀬を呆《あき》れさせた。しかしその野蛮な戯れは都会の退屈な
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