、高瀬が行っては草を藉《し》き、土の臭気《におい》を嗅ぎ、百姓の仕事を眺め、畠の中で吸う嬰児《あかんぼ》の乳の音を聞いたりなどして、暇さえあれば歩き廻るのを楽みとするところだ。一度消えた夏らしい白い雲が復た窓の外へ帰って来た。高瀬はその熱を帯びた、陰影の多い雲の形から、青空を流れる遠い水蒸気の群まで、見分けがつくように成った。
休みの時間毎に、高瀬は窓へ行った。極く幼少《おさな》い時の記憶が彼の胸に浮んで来た。彼は自分もまた髪を長くし、手造りにした藁《わら》の草履を穿いていたような田舎の少年であったことを思出した。河へ抄《すく》いに行った鰍《かじか》を思出した。榎《え》の樹《き》の下で橿鳥《かしどり》が落して行った青い斑《ふ》の入った羽を拾ったことを思出した。栗の樹に居た虫を思出した。その虫を踏み潰《つぶ》して、緑色に流れる血から糸を取り、酢《す》に漬け、引き延ばし、乾し固め、それで魚を釣ったことを思出した。彼は又、生きた蛙を捕《つかま》えて、皮を剥《は》ぎ、逆さに棒に差し、蛙の肉の一片《ひときれ》に紙を添えて餌《えさ》をさがしに来る蜂《はち》に与え、そんなことをして蜂の巣の在所《あ
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