した」
「どうして広岡先生のような人がこんな地方へ入り込んで来たものでしょう」
「それは、君、誰も知らない――」
塾の門前に近いところで、二人は学士に追い附いた。
朝顔の話はそこでも学士の口から出た。
「高瀬さん、今朝も咲きましたよ」
「どうも先生の朝顔はむずかしくッて、私にはまだよく解りません」と高瀬は笑いながら言った。
「町の方でポツポツ見に来て下さる方もあります……好きな人もあるんですネ……しかし私はまだ、この土地にはホントに御|馴染《なじみ》が薄い……」
学士は半ば独語《ひとりごと》のように言った。
正木大尉が桑畠の石垣を廻ってニコニコしながら歩いて来た。皆な連立って教員室の方へ行って見ると、桜井先生は早くから来て詰掛けていた。先生は朝のうちに一度中棚まで歩きに行って来たとも言った。
塾の庭にある樹木の緑も深い。清《すず》しそうなアカシヤの下には石に腰掛けて本を開ける生徒もある。濃い桜の葉の蔭には土俵が出来て、そこで無邪気な相撲《すもう》の声が起る。この山の上へ来て二度七月をする高瀬には、学校の窓から見える谷や岡が余程親しいものと成って来た。その田圃側《たんぼわき》は
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