から出た声で快活に笑った。「まるで、ゴツゴツした岩みたような連中ばかりだ」と彼は附添《つけた》した。
「しかし、君、その岩が好くなって来るから不思議だよ」と高瀬は戯れて言った。

 子安は先へ別れて行った。鉄道の踏切を越した高い石垣の側で、高瀬はユックリ歩いて来る学士を待受けた。
「高瀬さん、私も小諸の土に成りに来ましたよ」
 と学士は今までにない忸々《なれなれ》しい調子で話し掛けて、高瀬と一緒に石垣|側《わき》の段々を貧しい裏町の方へ降りた。
「……私も今、朝顔を作ってます……上田ではよく作りました……今年はウマくいくかどうか知りませんがネ、まあ見に来て下さらんか」
 こう歩き歩き高瀬に話し掛けて行くうちに、急にポツポツ落ちて来た。学士は家の方の朝顔|棚《だな》が案じられるという風で、大急ぎで高瀬に別れて行った。
 大きな石の砂に埋っている土橋の畔《たもと》あたりへ高瀬が出た頃は、雨が彼の顔へ来た。貧しい家の軒下には、茶色な――茶色なというよりは灰色な荒い髪の娘が立って、ションボリと往来の方を眺めていた。高瀬は途《みち》を急ごうともせず、顔へ来る雨を寧《むし》ろ楽みながら歩いた。そし
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