つては羽《はね》をひろげました。その度《たび》に舞《ま》ひ降《お》りるばかりでした。
雄鷄《おんどり》はもう高《たか》い聲《こゑ》で閧《とき》をつくるやうな勇氣《ゆうき》も挫《くじ》けまして、
『クウ/\、クウ/\。』
と拾《ひろ》ふ餌《え》もなくて鳴《な》きました。
そこへ山鳩《やまばと》が通《とほ》りかゝりました。山鳩《やまばと》は林《はやし》の中《なか》に聞《き》き慣《な》れない鷄《にはとり》の鳴聲《なきごゑ》を聞《き》きつけまして、傍《そば》へ飛《と》んで來《き》ました。百舌《もず》や鶸《ひは》とちがひ、山鳩《やまばと》は見《み》ず知《し》らずの雄鷄《おんどり》をいたはりました。
『もうすこしの辛抱《しんぼう》――もうすこしの辛抱《しんぼう》――』
と鳴《な》いて、山鳩《やまばと》は林《はやし》の奧《おく》の方《はう》へ飛《と》んで行《い》きました。
饑《かつ》えた雄鷄《おんどり》は一生懸命《いつしやうけんめい》に餌《え》を探《さが》しはじめました。他《ほか》の鳥《とり》に拾《ひろ》はれないうちに、自分《じぶん》で木《き》の實《み》や虫《むし》を見《み》つけるためには、否《いや
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