がみんなお伽噺《とぎばなし》でした。
五 荷物《にもつ》を運《はこ》ぶ馬《うま》
『もし/\、お前《まへ》さんは今《いま》歸《かへ》るところですか。』
父《とう》さんがお家《うち》の門《もん》の外《そと》に出《で》て見《み》ますと馬《うま》が近所《きんじよ》の馬方《うまかた》に引《ひ》かれて父《とう》さんの見《み》て居《ゐ》る前《まへ》を通《とほ》ります。この馬《うま》は夕方《ゆふがた》になると、きつと歸《かへ》つて來《く》るのです。
『さうです。今日《けふ》は荷物《にもつ》をつけて隣《となり》の村《むら》まで行《い》つて來《き》ました。』
とその馬《うま》が父《とう》さんに言《い》ひました。
『お前《まへ》さんの首《くび》には好《い》い音《おと》のする鈴《すゞ》がついて居《ゐ》ますね。』
と父《とう》さんが言《いひ》ますと、馬《うま》は首《くび》をふりながら、
『えゝ。私《わたし》が歩《ある》く度《たび》にこの鈴《すゞ》が鳴《な》ります。私《わたし》はこの鈴《すゞ》の音《おと》を聞《き》き乍《なが》らお家《うち》の方《はう》へ歸《かへ》つてまゐります。馬《うま》も荷物《にも
前へ
次へ
全171ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング