聞《き》くと、父《とう》さんは子供心《こどもごゝころ》にもお正月《しやうぐわつ》が山《やま》の中《なか》のお家《うち》へ來《く》ることを知《し》りました。

   四 子供《こども》の時分《じぶん》

これから父《とう》さんはお前達《まへたち》に、自分《じぶん》の子供《こども》の時分《じぶん》のことをお話《はなし》[#ルビの「はなし」は底本では「はな」]しようと思《おも》ひます。
父《とう》さんの幼少《ちひさ》な時分《じぶん》には、今《いま》のやうに少年《せうねん》の雜誌《ざつし》といふものも有《あ》りませんでした。お前達《まへたち》のやうに面白《おもしろ》いお伽噺《とぎばなし》の本《ほん》や、可愛《かあ》いらしい繪《ゑ》のついた雜誌《ざつし》なぞを讀《よ》むことも出來《でき》ませんでした。讀《よ》んで見《み》たくも、なんにもさういふお伽噺《とぎばなし》の本《ほん》や雜誌《ざつし》が無《な》いんでせう、おまけに、父《とう》さんの生《うま》れたところは山《やま》の中《なか》の田舍《ゐなか》でせう、そのかはり、幼少《ちひさ》な時分《じぶん》の父《とう》さんには、見《み》るもの聞《き》くもの
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