《きね》をかついで來《き》ました。臼《うす》もころがして來《き》ました。お餅《もち》にするお米《こめ》は裏口《うらぐち》の竈《かまど》で蒸《む》しましたから、そこへも手傳《てつだ》ひのお婆《ばあ》さんが來《き》て樂《たの》しい火《ひ》を焚《た》きました。
やがて蒸籠《せいろ》といふものに入《い》れて蒸《む》したお米《こめ》がやはらかくなりますとお婆《ばあ》さんがそれを臼《うす》の中《なか》へうつします。爺《ぢい》やは杵《きね》でもつて、それをつき始《はじ》めます。だんだんお米《こめ》がねばつて來《き》て、お餅《もち》が臼《うす》の中《なか》から生《うま》れて來《き》ます。爺《ぢい》やは力《ちから》一ぱい杵《きね》を振《ふ》り上《あ》げて、それを打《う》ちおろす度《たび》に、臼《うす》の中《なか》のお餅《もち》には大《おほ》きな穴《あな》があきました。お婆《ばあ》さんはまた腰《こし》を振《ふ》りながら、爺《ぢい》やが杵《きね》を振《ふ》り上《あ》げた時《とき》を見計《みはか》つては穴《あな》のあいたお餅《もち》をこねました。
『べつたらこ。べつたらこ。』
その餅《もち》つきの音《おと》を
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