《ほそ》い麥藁《むぎわら》の穗先《ほさき》の方《はう》を輕《かる》く折《を》つてお置《お》きなさい。氣《き》をつけてしないと、折《を》れて、とれてしまひますよ。それから太《ふと》い麥藁《むぎわら》の節《ふし》のある下《した》のところを一|寸《すん》ばかりお前《まへ》さんの爪《つめ》でお裂《さ》きなさい。これも氣《き》をつけてしないと、みんな裂《さ》けてしまひますよ。太《ふと》い麥藁《むぎわら》には必《かなら》ず一方《いつぱう》に節《ふし》のあるのが要《い》ります。それが出來《でき》ましたら、細《ほそ》い方《はう》の麥藁《むぎわら》を太《ふと》い麥藁《むぎわら》の裂《さ》けたところへ差《さ》し込《こ》むやうになさい。』
成程《なるほど》麥《むぎ》の言《い》ふ通《とほ》りにしましたら、子供《こども》らしい翫具《おもちや》が出來《でき》ました。細《ほそ》い麥藁《むぎわら》を下《した》から引《ひ》く度《たび》に、麥《むぎ》の穗先《ほさき》が動《うご》きまして、『今日《こんにち》は、今日《こんにち》は』と言《い》ふやうに見《み》えました。
父《とう》さんは、種々《いろ/\》な翫具《おもちや》が野
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