通《とほ》り、井戸《ゐど》の側《わき》の石段《いしだん》を馳《か》け登《のぼ》るやうにしまして、祖母《おばあ》さん達《たち》の居《ゐ》る方《はう》へ急《いそ》いで歸《かへ》つて行《い》つた時《とき》のことを忘《わす》れません。
それにつけても、父《とう》さんはある亞米利加人《あめりかじん》の話《はなし》を思《おも》ひ出《だ》します。
その亞米利加人《あめりかじん》がまだ子供《こども》の時分《じぶん》に龜《かめ》の子《こ》を打《う》つた話《はなし》を思《おも》ひ出《だ》します。生《うま》れて初《はじ》めて『惡《わる》い』といふ事《こと》をほんたうに知《し》つた、自分《じぶん》で惡《わる》いと思《おも》ひながら復《ま》た棒《ぼう》を振上《ふりあ》げ/\して龜《かめ》の子《こ》を打《う》つのに夢中《むちう》になつてしまつた、あんな心持《こゝろもち》は初《はじ》めてだ、さう亞米利加人《あめりかじん》の話《はなし》の中《なか》に書《か》いてあつたことを思《おも》ひ出《だ》します。その亞米利加人《あめりかじん》が母親《はゝおや》から言《い》はれた言葉《ことば》を引《ひ》いて、あれが自分《じぶん》の
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