の方《はう》に卵《たまご》でも産《う》みつけようとして居《ゐ》るやうな大《おほ》きな黒《くろ》い蝶々《てふ/\》を見《み》つけました。
いろ/\な可愛《かあい》らしい蝶々《てふ/\》も澤山《たくさん》ある中《なか》で、あの大《おほ》きな黒《くろ》い蝶々《てふ/\》ばかりは氣味《きみ》の惡《わる》いものです。あれは毛蟲《けむし》の蝶々《てふ/\》だと言《い》ひます。何《なん》の氣《き》なしに父《とう》さんはその蝶々《てふ/\》を打《う》ち落《おと》すつもりで、木戸《きど》の内《うち》の方《はう》から長《なが》い竹竿《たけざを》を探《さが》して來《き》ました。ほら、枳殼《からたち》といふやつは、あの通《とほ》りトゲの出《で》た、枝《えだ》の込《こ》んだ木《き》でせう。父《とう》さんが蝶々《てふ/\》をめがけて竹竿《たけざを》を振《ふ》る度《たび》に、それが枳殼《からたち》の枝《えだ》を打《う》つて、青《あを》い葉《は》がバラ/\落《お》ちました。
そのうちに蝶々《てふ/\》は父《とう》さんの竹竿《たけざを》になやまされて、手傷《てきず》を負《お》つたやうでしたが、まだそれでも逃《に》げて行
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