まの社《やしろ》の番人《ばんにん》をして居《ゐ》ます。私《わたし》のやうな狐《きつね》でも生《うま》れ變《かは》つたやうになれば、斯《か》うして社《やしろ》の番人《ばんにん》をさせて頂《いたゞ》けるのです。私《わたし》がもう若《わか》い時分《じぶん》のやうな惡戯《いたづら》な狐《きつね》でない證據《しようこ》には、この私《わたし》の口《くち》を御覽《ごらん》になつても分ります。私《わたし》がお稻荷《いなり》さまのお使《つか》ひをして歩《ある》く度《たび》に、この口《くち》にくはへて居《ゐ》る寶珠《はうじゆ》の玉《たま》が光《ひか》ります。』
とさう申《まを》しました。

   二九 生徒《せいと》さん、今日《こんにち》は

村《むら》の學校《がくかう》の生徒《せいと》が石垣《いしがき》の間《あひだ》の細《ほそ》い道《みち》を歸《かへ》つて來《き》ますと、こちらの石垣《いしがき》から向《むか》ふの石垣《いしがき》の方《はう》へ通《とほ》りぬけようとする鼠《ねずみ》がありました。丁度《ちやうど》、村《むら》では惡戯《いたづら》をした鼠《ねずみ》の噂《うはさ》が傳《つた》はつて居《ゐ》る頃《
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