入口《いりくち》に着《つ》くには、六曲峠《ろくきよくたうげ》といふ峠《たうげ》を越《こ》して來《こ》なければなりません。そこが信濃《しなの》と美濃《みの》の國境《くにざかひ》で、父《とう》さんの村《むら》のはづれに當《あた》つて居《ゐ》ます。馬籠《まごめ》の驛《えき》まで來《く》れば御嶽山《おんたけさん》はもう遠《とほ》くはない、そのよろこびが皆《みんな》の胸《むね》にあるのです。あの白《しろ》い着物《きもの》に、白《しろ》い鉢巻《はちまき》をした山登《やまのぼ》りの人達《ひとたち》が、腰《こし》にさげた鈴《りん》をちりん/\鳴《な》らしながら多勢《おほぜい》揃《そろ》つて通《とほ》るのは、勇《いさま》しいものでした。

   二三 芭蕉翁《ばせをおう》の石碑《せきひ》

お前達《まへたち》は芭蕉翁《ばせをおう》の名《な》を聞《き》いたことが有《あ》りませう。あの芭蕉翁《ばせをおう》の木曾《きそ》で讀《よ》んだ發句《ほつく》が石《いし》に彫《ほ》りつけてあります。その古《ふる》い石碑《せきひ》が馬籠《まごめ》の村《むら》はづれに建《た》てゝあります。美濃《みの》の國境《くにざかひ》に近
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