強《つよ》い脚《あし》の力《ちから》が、木曾生《きそうま》れの馬《うま》には自然《しぜん》と具《そな》はつて居《ゐ》るのです。
木曾馬《きそうま》は小《ちひさ》いが、足腰《あしこし》が丈夫《ぢやうぶ》で、よく働《はたら》くと言《い》つて、それを買《か》ひに來《く》る博勞《ばくらう》が毎年《まいねん》諸國《しよこく》から集《あつ》まります。博勞《ばくらう》とは馬《うま》の賣買《うりかひ》を商賣《しやうばい》にする人《ひと》のことです。木曾《きそ》の山地《さんち》に育《そだ》つた眼付《めつき》の可愛《かあい》らしい動物《どうぶつ》がその博勞《ばくらう》に引《ひ》かれながら、諸國《しよこく》へ働《はたら》きに出《で》るのです。

   二二 御嶽參《おんたけまゐ》り

『チリン/\。チリン/\。』
山《やま》が夏《なつ》らしくなると、鈴《すゞ》の音《おと》が聞《きこ》えるやうに成《な》ります。御嶽山《おんたけさん》に登《のぼ》らうとする人達《ひとたち》が幾組《いくくみ》となく父さんのお家《うち》の前《まへ》を通《とほ》るのです。馬《うま》に乘《の》るか、籠《かご》に乘《の》るか、さもなければ
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