み》が落《お》ちる時分《じぶん》でした。父《とう》さんはそれを拾《ひろ》ふのを樂《たのし》みにして、まだあの實《み》が青《あを》くて食《た》べられない時分《じぶん》から、早《はや》く紅《あか》くなれ早《はや》く紅《あか》くなれと言《い》つて待《ま》つて居《ゐ》ました。
爺《ぢい》やは山《やま》へも木《き》を伐《き》りに行《ゆ》くし畑《はたけ》へも野菜《やさい》をつくりに行《い》つて、何《なん》でもよく知《し》つて居《ゐ》ましたから、
『まだ榎木《えのき》の實《み》は澁《しぶ》くて食《た》べられません。もう少《すこ》しお待《ま》ちなさい。』とさう申《まを》しました。
父《とう》さんは榎木《えのき》の實《み》の紅《あか》くなるのが待《ま》つて居《ゐ》られませんでした。爺《ぢい》やが止《と》めるのも聞《き》かずに、馳出《かけだ》して木《き》の實《み》を拾《ひろ》ひに行《ゆ》きますと、高《たか》い枝《えだ》の上《うへ》に居《ゐ》た一|羽《は》の橿鳥《かしどり》が大《おほ》きな聲《こゑ》を出《だ》しまして、
『早過《はやす》ぎた。早過《はやす》ぎた。』と鳴《な》きました。
父《とう》さんは、枝《
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