くみ》になつた栗《くり》の實《み》の毬《いが》と一|緒《しよ》に落《お》ちたのを父《とう》さんに拾《ひろ》はせて呉《く》れました。高《たか》いところを見《み》ると、ワンと口《くち》を開《あ》いた栗《くり》の毬《いが》が枝《えだ》の上《うへ》から父《とう》さんの方《はう》を笑《わら》つて見《み》て居《ゐ》まして、わざと落《お》ちた栗《くり》の在《あ》る塲所《ばしよ》も教《をし》へずに、父《とう》さんに探《さが》し廻《まは》らせては悦《よろこ》んで居《を》りました。
『あんなところに落《お》ちて居《ゐ》るのが、あれが見《み》えないのかナア。』とは栗《くり》の毬《いが》がよく父《とう》さんに言《い》ふことでした。栗《くり》の木《き》は花《はな》からして提灯《ちやうちん》をぶらさげたやうに滑稽《こつけい》な木《き》でしたし、どうかすると青《あを》い栗虫《くりむし》なぞを落《おと》してよこして、人《ひと》をびつくりさせることの好《す》きな木《き》でしたが、でも父《とう》さんの好《す》きな木《き》でした。
一八 榎木《えのき》の實《み》
お家《うち》の裏《うら》にある榎木《えのき》の實《
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