、あの甘《あま》い香《にほ》ひのする小《ちひ》さな花《はな》が一ぱい落《お》ちて居《ゐ》ます。實《み》の生《な》る時分《じぶん》に行《ゆ》くと、あの蔕《へた》のついた青《あを》い小《ちひ》さな柿《かき》が澤山《たくさん》落《お》ちて居《ゐ》ます。そろ/\木《き》の葉《は》の落《お》ちる時分《じぶん》に行《ゆ》くと大《おほ》きな色《いろ》のついた柿《かき》の葉《は》がそこにもこゝにも落《お》ちて居《ゐ》ます。父《とう》さんはそれを拾集《ひろひあつ》めるのが樂《たのし》みでした。それに他《ほか》のお家《うち》の柿《かき》の木《き》へは登《のぼ》らうと思《おも》つても登《のぼ》れませんでしたが、自分《じぶん》のお家《うち》の柿《かき》の木《き》ばかりは惡《わる》い顏《かほ》もせずに登《のぼ》らせて呉《く》れました。父《とう》さんは枝《えだ》から枝《えだ》をつたつて登《のぼ》つて、時《とき》にゆすつたりしても柿《かき》の木《き》は怒《おこ》りもしないのみか、『もつと遊《あそ》んでお出《いで》。もつと遊《あそ》んでお出《いで》。』
と父《とう》さんに言《い》ひました。
一七 鳥獸《とりけ
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