て、この手造《てづく》りにしたものゝ樂《たのし》みを父《とう》さんに教《をし》へて呉《く》れたのは、祖母《おばあ》さんでした。
祖母《おばあ》さんは働《はたら》くことが好《す》きで、みんなの先《さき》に立《た》つてお茶《ちや》もつくりましたし、着物《きもの》も根氣《こんき》に織《お》りました。祖母《おばあ》さんは隣村《となりむら》の妻籠《つまかご》といふところから、父《とう》さんのお家《うち》へお嫁《よめ》に來《き》た人《ひと》で、曾祖母《ひいおばあ》[#「ひいおばあ」は底本では「ひいおば」]さんほどの學問《がくもん》は無《な》いと言《い》ひましたが、でもみんなに好《す》かれました。林檎《りんご》のやうに紅《あか》い祖母《おばあ》さんの頬《ほゝ》ぺたは、家中《いへぢう》のものゝ心《こゝろ》をあたゝめました。
祖母《おばあ》さんの着物《きもの》を織《お》る塲所《ばしよ》はお家《うち》の玄關《げんくわん》の側《そば》の板《いた》の間《ま》と定《きま》つて居《ゐ》ました。そのお庭《には》の見《み》える明《あか》るい障子《しやうじ》の側《そば》に祖母《おばあ》さんの腰掛《こしかけ》て織《お》る
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