か》くにありました。小學校《せうがくかう》の生徒《せいと》に狐《きつね》がついたと言《い》つて、一|度《ど》大騷《おほさわ》ぎをしたことがありました。父《とう》さんはその時分《じぶん》はまだ幼少《ちひさ》くてなんにも知《し》りませんでしたが、その狐《きつね》のついたといふ生徒《せいと》は口《くち》から泡《あわ》を出《だ》し、顏色《かほいろ》も蒼《あを》ざめ、ぶる/″\震《ふる》へてしまひました。何度《なんど》も/\も名前《なまへ》を呼《よ》ばれて、漸《やうや》くその生徒《せいと》は正氣《しやうき》に復《かへ》つた事《こと》がありました。桃林和尚《たうりんをしやう》はその話《はなし》も聞《き》いて知《し》つて居《を》りましたから、いづれ狐《きつね》がまた何《なに》か惡戯《いたづら》をするためにお寺《てら》へ訪《たづ》ねて來《き》たに違《ちが》ひないと、直《すぐ》に感《かん》づきました。
『和尚《をしやう》さん、和尚《をしやう》さん、こちらは大層《たいそう》好《よ》いお住居《すまゐ》ですね。この村《むら》に澤山《たくさん》お家《うち》がありましても、こちらにかなふところはありません。村中《
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