、みんな網《あみ》や黐《もち》に掛《かゝ》つてしまひますが、私共《わたしども》にかぎつて軒先《のきさき》を貸《か》して下《くだ》すつたり巣《す》をかけさせたりして下《くだ》さいます。それが嬉《うれ》しさに、斯《か》うして毎年《まいねん》旅《たび》をして參《まゐ》るのです。』
一四 永昌寺《えいしやうじ》
『今日《こんにち》は。』
と狐《きつね》が永昌寺《えいしやうじ》の庭《には》へ來《き》て言《い》ひました。永昌寺《えいしやうじ》とは、父《とう》さんの村《むら》のお寺《てら》です。そのお寺《てら》に、桃林和尚《たうりんをしやう》といふ年《とし》とつた和尚《をしやう》さんが住《す》んで居《ゐ》ました。この僧侶《ばうさん》は心《こゝろ》の善《よ》い人《ひと》でした。
『お前《まへ》は何《なに》しに來《き》ました。』
と桃林和尚《たうりんをしやう》が尋《たづ》ねますと、狐《きつね》の言《い》ふことには、
『わたしはお寺《てら》を拜見《はいけん》にあがりました。』
父《とう》さんが初《はじ》めてあがつた小學校《せうがくかう》も、この和尚《をしやう》さんの住《す》むお寺《てら》の近《ち
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