祖父《おぢい》さんもお健者《たつしや》ですか。』と尋《たづ》ねるらしいのでしたが燕《つばめ》の言《い》ふことは早口《はやぐち》で、
『ペチヤ、クチヤ、ペチヤ、クチヤ。』
としか父《とう》さんには聞《きこ》えませんでした。
斯《か》うした言葉《ことば》の通《つう》じない燕《つばめ》も、村《むら》に住《す》み慣《な》れて、家々《いへ/\》の軒《のき》に巣《す》をつくり、くちばしの黄色《きいろ》い可愛《かあい》い子供《こども》を育《そだ》てる時分《じぶん》には、大分《だいぶ》言葉《ことば》がわかるやうになりました。燕《つばめ》が父《とう》さんのところへ來《き》て何《なに》を言《い》ふかと思《おも》ひましたら、こんなことを言ひ《い》ました。
『私共《わたしども》は遠《とほ》い國《くに》の方《はう》から參《まゐ》るものですから、なか/\言葉《ことば》が覺《おぼ》えられません、でも、あなたがたが親切《しんせつ》にして下《くだ》さるのを、何《なに》より有難《ありがた》く思《おも》ひます。鶫《つぐみ》といふ鳥《とり》や鶸《ひわ》といふ鳥《とり》は、何《なん》百|羽《ぱ》飛《と》んで參《まゐ》りましても
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