けましたが、まるでこの燕《つばめ》は異人《ゐじん》でした。一|向《かう》に言葉《ことば》が通《つう》じませんでした。
『もしもし、燕《つばめ》さん、お前《まへ》さんは一|年《ねん》に一|度《ど》づゝ、この村《むら》へ來《く》るではありませんか。遠《とほ》い國《くに》の方《はう》へ行《い》つて居《ゐ》て、日本《にほん》の言葉《ことば》も忘《わす》れたのですか。』と父《とう》さんが言《い》ひますと、燕《つばめ》は懷《なつ》かしい國《くに》の言葉《ことば》で物《もの》を言《い》ひたくても、それが言《い》へないといふ風《ふう》で、唯《ただ》、ペチヤ、クチヤ、ペチヤ、クチヤ、異人《ゐじん》さんのやうな解《わか》らないことを言《い》ひました。
燕《つばめ》は嬉《うれ》しさうに父《とう》さんを見《み》て尻尾《しつぽ》の羽《はね》を左右《さいう》に振《ふり》ながら、遠《とほ》い空《そら》から漸《やうや》くこの山《やま》の中《なか》へ着《つ》いたといふ話《はなし》でもするらしいのでした。それを國《くに》の言葉《ことば》で言《い》へば、『皆《みな》さん、お變《かは》りもありませんか、あなたのお家《うち》の
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