隣《となり》の八幡屋《やはたや》の方《はう》へ飛《と》んで行《ゆ》くのもあります。ずつと坂《さか》の下《した》の方《はう》の三|浦屋《うらや》という宿屋《やどや》の方《はう》へ飛《と》んで行《ゆ》くのもあります。村《むら》で染物《そめもの》をする峯屋《みねや》へも、俵屋《たはらや》のお婆《ばあ》さんの家《うち》へも、和泉屋《いづみや》の和太郎《わたらう》さんのお家《うち》へも飛《と》んで行《ゆ》きました。父《とう》さんが村役塲《むらやくば》の前《まへ》を通《とほ》りますと、そこへ來《き》て羽《はね》を休《やす》めて居《ゐ》る燕《つばめ》もありました。燕《つばめ》は役塲《やくば》の前《まへ》に建《た》てゝある木《き》の標柱《はしら》を眺《なが》めて、さも/\遠《とほ》い旅行《りよかう》をして來《き》たやうな顏《かほ》をして居《ゐ》ました。
『長野縣《ながのけん》西筑摩郡《にしちくまごほり》木曾神坂村《きそみさかむら》』とその木《き》の標柱《はしら》には書《か》いてあるのです。父《とう》さんは燕《つばめ》の話《はなし》を聞《き》いて見《み》たいと思《おも》ひまして、いろ/\に話《はな》しか
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