お雛《ひな》は、斯《か》ういふ山家《やまが》に生《うま》れた女《をんな》でした。筍《たけのこ》の皮《かは》を三|角《かく》に疊《たゝ》んで、中《なか》に紫蘇《しそ》の葉《は》の漬《つ》けたのを入《い》れて、よくそれを父《とう》さんに呉《く》れたのもお雛《ひな》でした。それを吸《す》へば紫蘇《しそ》の味《あぢ》がして、チユー/\吸《す》ふうちに、だん/\筍《たけのこ》の皮《かは》が赤《あか》く染《そま》つて來《く》るのも嬉《うれ》しいものでした。このお雛《ひな》は村《むら》の髮結《かみゆひ》の娘《むすめ》でした。お雛《ひな》のお父《とう》さんは數衛《かずゑ》といふ名《な》で、男《をとこ》の髮結《かみゆひ》でしたが、村中《むらぢう》で一|番《ばん》汚《きたな》いといふ評判《ひやうばん》の人《ひと》でした。その汚《きたな》い髮結《かみゆひ》の家《いへ》のお雛《ひな》に育《そだ》てられると言《い》つて、父《とう》さんは人《ひと》に調戯《からかは》れたものです。
『やあ數衛《かずゑ》の子《こ》だ。』
こんなことを言《い》つて惡戯好《いたづらず》きな人達《ひとたち》は父《とう》さんまで汚《きたな》
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