中《なか》にも『食《た》べられるからおあがり。』と言《い》つてくれるのもありました。
「スイ葉《は》」と言《い》つて、青《あを》い木《き》の葉《は》の生《なま》で食《た》べられるものもありました。草《くさ》では「いたどり」や「すいこぎ」が食《た》べられましたが、あの「すいこぎ」の莖《くき》を採《と》つて來《き》てお家《うち》で鹽漬《しほづけ》をして遊《あそ》ぶこともありました。
『手《て》をお出《だ》し。私《わたし》もおいしいものを上《あ》げますよ。』
父《とう》さんが石垣《いしがき》の側《そば》を通《とほ》る度《たび》に、蛇苺《へびいちご》が左樣《さう》言《い》つては父《とう》さんを誘《さそ》ひました。蛇苺《はびいちご》は毒《どく》だと言《い》ひます。それを父《とう》さんも聞《き》いて知《し》つて居《ゐ》ました。あの眼《め》のさめるやうな紅《あか》い蛇苺《へびいちご》の實《み》が甘《うま》いことを言《い》つてよく父《とう》さんを誘《さそ》ひましたが、そればかりは觸《さは》りませんでした。
父《とう》さんの幼少《ちひさ》い時分《じぶん》に抱《だ》いたり背負《おぶ》つたりして呉《く》れた
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