《きじ》の話《はなし》、それから奧山《おくやま》の方《はう》に住《す》むといふ恐《おそ》ろしい狼《おほかみ》や山犬《やまいぬ》の話《はなし》なぞを聞《き》きましたが、そのうちに眠《ねむ》くなつて、爺《ぢい》やの話《はなし》を聞《き》きながら爐邊《ろばた》でよく寢《ね》てしまひました。
一二 草摘《くさつ》みに
父《とう》さんの幼少《ちひさ》な時分《じぶん》には、お錢《あし》といふものを持《も》たせられませんでしたから、それが癖《くせ》になつて、お錢《あし》は子供《こども》の持《も》つものでないと思《おも》つて居《ゐ》ましたし、巾着《きんちやく》からお錢《あし》を出《だ》して自分《じぶん》の好《す》きなものを買《か》ふことも知《し》りませんでした。お家《うち》からお錢《あし》を貰《もら》つて行《い》つて何《なに》か買《か》ふのは、村《むら》の祭禮《おまつり》の時《とき》ぐらゐのものでした。
そのかはり、お庭《には》にある柿《かき》や梨《なし》なぞが生《な》りたての新《あたら》しい果物《くだもの》を父《とう》さんに御馳走《ごちそう》して呉《く》れました。祖母《おばあ》さんが朴《ほ
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