たてのお餅《もち》の中《なか》から大《おほ》きな里芋《さといも》の子《こ》なぞが白《しろ》く出《で》て來《き》た時《とき》は、どんなに嬉《うれ》しいでせう。爺《ぢい》やは御飯《ごはん》の時《とき》でも、なんでも、草鞋《わらぢ》ばきの土足《どそく》のまゝで爐《ろ》の片隅《かたすみ》に足《あし》を投《な》げ入《い》れましたが、夕方《ゆふがた》仕事《しごと》の濟《す》む頃《ころ》から草鞋《わらぢ》をぬぎました。爐邊《ろばた》にある古《ふる》い屏風《べうぶ》の側《わき》が爺《ぢい》やの夜《よ》なべをする塲所《ばしよ》ときまつて居《ゐ》ました。爺《ぢい》やはその屏風《べうぶ》の側《わき》に新《あたら》しい藁《わら》なぞを置《お》いて、父《とう》さんのために小《ちひ》さな草履《ざうり》を造《つく》つたり、自分《じぶん》ではく草鞋《わらぢ》を造《つく》つたりしました。爺《ぢい》やのお伽話《とぎばなし》はその時《とき》に始《はじ》まるのでした。
父《とう》さんはこの好《す》きな老人《らうじん》から、畠《はたけ》よりあらはれた狸《たぬき》や狢《むじな》の話《はなし》、山《やま》で飛《と》び出《だ》した雉
前へ 次へ
全171ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング