祖母《おばあ》さん、伯父《おぢ》さん、伯母《おば》さんの顏《かほ》から、奉公《ほうこう》するお雛《ひな》の顏《かほ》まで、家中《うちぢう》のものゝ顏《かほ》は焚火《たきび》に赤《あか》く映《うつ》りました。その樂《たのし》い爐邊《ろばた》には、長《なが》い竹《たけ》の筒《つゝ》とお魚《さかな》の形《かた》と繩《なは》とで出來《でき》た煤《すゝ》けた自在鍵《じざいかぎ》が釣《つ》るしてありまして、大《おほ》きなお鍋《なべ》で物《もの》を煮《に》る塲所《ばしよ》でもあり家中《うちぢう》集《あつ》まつて御飯《ごはん》を食《た》べる塲所《ばしよ》でもありました。父《とう》さんの田舍《ゐなか》では寒《さむ》くなると毎朝《まいあさ》芋焼餅《いもやきもち》といふものを燒《や》いて、朝《あさ》だけ御飯《ごはん》のかはりに食《た》べました。蕎麥《そば》の粉《こ》に里芋《さといも》の子《こ》をまぜて造《つく》つたその燒餅《やきもち》の焦《こ》げたところへ大根《だいこん》おろしをつけて焚火《たきび》にあたりながらホク/\食《た》べるのは、どんなにおいしいでせう。その蕎麥《そば》の香《にほ》ひのする燒《や》き
前へ
次へ
全171ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング