》つたりして、お家《うち》の木小屋《きごや》の方《はう》へ歸《かへ》つて來《く》るのでした。
この爺《ぢい》やは庄吉《しようきち》といふ名《な》で、父《とう》さんの生《うま》れない前《まへ》からお家《うち》に奉公《ほうこう》して居《ゐ》ました。
『よ、どつこいしよ。』
と爺《ぢい》やは山《やま》からかついで來《き》た木《き》をおろしました。木小屋《きごや》のなかでそれを割《わ》りました。この爺《ぢい》やの大《おほ》きな手《て》は寒《さむ》くなると、皸《あかぎれ》が切《き》れて、まるで膏藥《かうやく》だらけのザラ/\とした手《て》をして居《ゐ》ましたが、でもその心《こゝろ》は正直《しやうぢき》な、そして優《やさ》しい老人《らうじん》でした。
爺《ぢい》やは山《やま》から伐《き》つて來《き》た木《き》を木小屋《きごや》にしまつて置《お》いて、焚《たき》つけにする松葉《まつば》もしまつて置《お》いて、要《い》るだけづゝお家《うち》の爐邊《ろばた》へ運《はこ》びました。赤々《あか/\》とした火《ひ》が毎日《まいにち》爐邊《ろばた》で燃《も》えました。曾祖母《ひいばあ》さん、祖父《おぢい》さん、
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