は。』
と言《い》ひますと、お馴染《なじみ》の馬《うま》は鼻《はな》から白《しろ》い氣息《いき》を出《だ》して笑《わら》ひながら
『やあ、今日《こんにち》は、お前《まへ》さんも竹馬《たけうま》ですね。』
と挨拶《あいさつ》しました。美濃《みの》の中津川《なかつがは》といふ町《まち》の方《はう》から、いろ/\な物《もの》を脊中《せなか》につけて來《き》て呉《く》れるのも、あの馬《うま》でした。時《とき》には父《おう》さんの村《むら》なぞに無《な》いめづらしい玩具《おもちや》や、父《とう》さんの好《す》きな箱入《はこいり》の羊羹《やうかん》を隣《となり》の國《くに》の方《はう》から土産《みやげ》につけて來《き》て呉《く》れるのも、あの馬《うま》でした。
『雪《ゆき》が降《ふ》つて樂《たのし》みでせうね。』
と馬《うま》が言《い》ひましたが、雪《ゆき》が降《ふ》れば馬《うま》でも嬉《うれ》しいかと父《とう》さんは思《おも》ひました。山《やま》の中《なか》へ來《く》る冬《ふゆ》やお正月《しやうぐわつ》には、お前達《まへたち》の知《し》らないやうな樂《たのし》さもありますね。氷滑《こほりすべ》り
前へ 次へ
全171ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング