かぎり廣々《ひろ/″\》とした野原《のはら》がありますよ。何《なに》か光《ひか》つて見《み》える河《かは》のやうなものもありますよ。』
『それはきつとお隣《となり》の國《くに》です。』
父《とう》さんの生《うま》れた田舍《ゐなか》は美濃《みの》の方《はう》へ降《お》りようとする峠《たうげ》の上《うへ》にありましたから、お家《うち》のお座敷《ざしき》からでもお隣《となり》の國《くに》が山《やま》の向《むか》ふの方《はう》に見《み》えました。極《ご》くお天氣《てんき》の好《よ》い日《ひ》には、遠《とほ》い近江《あふみ》の國《くに》の伊吹山《いぶきやま》まで、かすかに見《み》えることがあると、祖父《おぢい》さんが父《とう》さんに話《はな》して呉《く》れたこともありました。
『お蔭《かげ》で、高《たか》いところから見物《けんぶつ》しました。』
と凧《たこ》が言《い》ひました。
父《とう》さんも凧《たこ》を揚《あげ》たり、凧《たこ》の話《はなし》を聞《き》いたりして、面白《おもしろ》く遊《あそ》びました。自分《じぶん》の造《つく》つた凧《たこ》がそんなによく揚《あが》つたのを見《み》るのも樂《た
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