てやります。そのうちに凧《たこ》は風《かぜ》をうけて、高《たか》く高《たか》く、のして行《ゆ》きました。
『凧《たこ》さん、よく揚《あが》りましたね。そんなに高《たか》いところへ揚《あが》つたらそこいらがよく見《み》えませう。』
と父《とう》さんが下《した》から尋《たづ》ねますと、凧《たこ》は高《たか》い空《そら》から見《み》える谷底《たにそこ》の話《はなし》をしました。
『凧《たこ》さん、何《なに》が見《み》えます。ほうぼうのお家《うち》が見《み》えますか。』[#底本では「』」が脱字]
『えゝ、石《いし》の載《の》せてあるお家《うち》の屋根《やね》から、竹藪《たけやぶ》まで見《み》えます。馬籠《うまかご》の村《むら》が一|目《め》に見《み》えます。荒町《あらまち》の鎭守《ちんじゆ》の杜《もり》まで見《み》えます。』
『お祖父《ぢい》さんの好《す》きな惠那山《ゑなやま》は奈何《どんな》でせう。』
『惠那山《ゑなやま》もよく見《み》えます。もつと向《むか》ふの山《やま》も見《み》えます。高《たか》い山《やま》がいくつも/\見《み》えます。その山《やま》の向《むか》ふには、見渡《みわた》す
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