《かぜ》[#ルビの「かぜ」は底本では「たこ」]が來《き》ました。この風《かぜ》に早《はや》く揚《あ》げて下《くだ》さい。』
と凧《たこ》が言《い》ひました。父《とう》さんが大急《おほいそ》ぎで糸《いと》を出《だ》しますと、凧《たこ》は左右《さいう》に首《くび》を振《ふ》つたり、長《なが》い紙《かみ》の尾《を》をヒラ/\させたりしながら、さも心持《こゝろもち》よささうに揚《あが》つて行《ゆ》きました。
凧《たこ》は空《そら》の方《はう》に居《ゐ》て、父《とう》さんにいろ/\な注文《ちうもん》をします。『あゝわたしは面喰《めんくら》ひそうになりました。もつと絲《いと》をたぐつて下《くだ》さい。』と言《い》ふ時《とき》には、父《とう》さんは凧《たこ》の注文《ちうもん》する通《とほ》りに絲《いと》をたぐつてやります。『今度《こんど》は左《ひだり》の方《はう》へ傾《かし》ぎさうになりました。早《はや》く右《みぎ》の方《はう》へ糸《いと》を引《ひ》いて下《くだ》さい。』と言《い》ふ時《とき》には、父《とう》さんはまた凧《たこ》の言《い》ふ通《とほ》りに右《みぎ》の方《はう》へ糸《いと》を引《ひ》い
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