木曾《きそ》の山《やま》の中《なか》が父《とう》さんの生《うま》れたところなんですから。
人《ひと》はいくつに成《な》つても子供《こども》の時分《じぶん》に食《た》べた物《もの》の味《あぢ》を忘《わす》れないやうに、自分《じぶん》の生《うま》れた土地《とち》のことを忘《わす》れないものでね。假令《たとへ》その土地《とち》が、どんな山《やま》の中《なか》でありましても、そこで今度《こんど》、父《とう》さんは自分《じぶん》の幼少《ちひさ》い時分《じぶん》のことや、その子供《こども》の時分《じぶん》に遊《あそ》び廻《まは》つた山《やま》や林《はやし》のお話《はなし》を一|册《さつ》の小《ちひ》さな本《ほん》に[#「に」は底本では「こ」]作《つく》らうと思《おも》ひ立《た》ちました。あの『幼《をさな》きものに』と同《おな》じやうに、今度《こんど》の本《ほん》も太郎《たらう》や次郎《じらう》などに話《はな》し聞《き》かせるつもりで書《か》きました。それがこの『ふるさと』です。
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   一 雀《すずめ》のおやど

みんなお出《いで》。お話《はなし》しませう。先《ま》づ雀《すずめ》の
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