や石《いし》が田圃《たんぼ》の間《あひだ》に見《み》えました。そこからはもう信濃《しなの》と美濃《みの》の國境《くにさかひ》に近《ちか》いのです。父《とう》さんの田舍《ゐなか》は信濃《しなの》の山國《やまぐに》から平《たひら》な野原《のはら》の多《おほ》い美濃《みの》の方《はう》へ降《おり》て行《ゆ》く峠《たうげ》の一|番《ばん》上《うへ》のところにあつたのです。
さういふ岩《いは》や石《いし》の多《おほ》い峠《たうげ》の上《うへ》に出來《でき》たお城《しろ》のやうな村《むら》ですから、まるで梯子段《はしごだん》の上《うへ》にお家《うち》があるやうに、石垣《いしがき》をきづいては一|軒《けん》づゝお家《うち》が建《た》てゝありました。どちらを向《む》いても坂《さか》ばかりでした。父《とう》さんがお隣《となり》の酒屋《さかや》の方《はう》へ上《のぼ》つて行《ゆ》くにも坂《さか》、お忠《ちう》婆《ばあ》さんといふ人《ひと》の住《す》む家《うち》の方《はう》へ降《お》りて行《ゆ》くにも坂《さか》でした。
この田舍《ゐなか》は水《みづ》に不自由《ふじいう》なところでした。谷《たに》の底《そこ》
前へ
次へ
全171ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング