火《きつねび》が燃《も》えて居《ゐ》ますよ。』
と村《むら》の人《ひと》に言《い》はれて、父《とう》さんはお家《うち》の前《まへ》からそのチラ/\と燃《も》える青《あを》い狐火《きつねび》を遠《とほ》い山《やま》の向《むか》ふの方《はう》に望《のぞ》んだこともありました。あれは狐《きつね》が松明《たいまつ》を振《ふ》るのだとも言《い》ひましたし、奧山《おくやま》の木《き》の根《ね》が腐《くさ》つて光《ひか》るのを狐《きつね》が口《くち》にくはへて振《ふ》るのだとも言《い》ひました。父《とう》さんは子供《こども》で、なんにも知《し》りませんでしたが、あの青《あを》い美《うつく》しい不思議《ふしぎ》な狐火《きつねび》を夢《ゆめ》のやうに思《おも》ひました。父《とう》さんの生《うま》れたところは、それほど深《ふか》い山《やま》の中《なか》でした。
七 水《みづ》の話《はなし》
父《とう》さんの田舍《ゐなか》は木曾街道《きそかいだう》の中《なか》の馬籠峠《うまかごたうげ》といふところで、信濃《しなの》の國《くに》の一|番《ばん》西《にし》の端《はし》にあたつて居《ゐ》ました。お正月《
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