》つて、樂《たのし》さうに行水《ぎやうずゐ》をつかつて貰《もら》つて居《ゐ》る馬《うま》を眺《なが》めました。そして、馬《うま》の行水《ぎやうずゐ》の始《はじ》まる時分《じぶん》には山《やま》の中《なか》の村《むら》へ夕方《ゆふがた》の來《く》ることを知《し》りました。それに氣《き》がついては、父《とう》さんは自分《じぶん》のお家《うち》の方《はう》へ歸《かへ》りませうと思《おも》ひました。

   六 奧山《おくやま》に燃《も》える火《ひ》

父《とう》さんの田舍《ゐなか》では、夕方《ゆふがた》になると夜鷹《よたか》といふ鳥《とり》が空《そら》を飛《と》[#ルビの「と」は底本では「とび」]びました。その夜鷹《よたか》の出《で》る時分《じぶん》には、蝙蝠《かうもり》までが一|緒《しよ》に舞《ま》ひ出《だ》しました。
『蝙蝠《かうもり》――來《こ》い、來《こ》い。』
と言《い》ひながら、父《とう》さんは蝙蝠《かうもり》と一|緒《しよ》になつて飛《と》び歩《ある》いたものです。どうかすると狐火《きつねび》といふものが燃《も》えるのも、村《むら》の夕方《ゆふがた》でした。
『御覽《ごらん》狐
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