《はう》へ行《い》つて、たつた一《ひと》つだけ高《たか》いところに殘《のこ》つて居《ゐ》たのを長《なが》い竿《さを》で落《おと》しました。もうお隣《とな》りの木《き》の枝《えだ》には一つも赤《あか》い柿《かき》がありません。それを見《み》ると、青《あを》い柿《かき》は自分《じぶん》獨《ひと》り取殘《とりのこ》されたやうに、よけいに力《ちから》を落《おと》しました。
そのうちに、お百姓《ひやくしやう》が復《ま》た庭《には》へ見廻《みまは》りに來《き》ました。今度《こんど》は青《あを》い柿《かき》の生《な》つた木《き》の下《した》へ來《き》まして、斯《か》う聲《こゑ》を掛《か》けました。
『御覽《ごらん》、甘《あま》い柿《かき》はもう一つもなくなつてしまひました。今度《こんど》はお前《まへ》さんの番《ばん》に廻《まは》つて來《き》ましたよ。どんな柿《かき》の澁《しぶ》いのでも、霜《しも》が來《く》れば甘《あま》くなります。皮《かは》をむいて軒下《のきした》に釣《つ》るして置《お》いても甘《あま》くなります。澁《しぶ》い柿《かき》はもつとそこに辛抱《しんばう》してお出《いで》なさい。そして時
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