ひましたら、青《あを》い柿《かき》は首《くび》を振《ふ》りまして、
『いえ、あのお猿《さる》さんが蟹《かに》にぶつけたのも、きつと私《わたし》のやうな澁《しぶ》い柿《かき》で、自分《じぶん》で取《と》つて食《た》べたといふのはお前《まへ》さんのやうな甘《あま》い柿《かき》ですよ。』
と力《ちから》を落《おと》したやうに言《い》ひました。
お百姓《ひやくしやう》は庭《には》へ見廻《みまは》りに來《き》まして、赤《あか》い柿《かき》を大《おほ》きな笊《ざる》に入《い》れて持《も》つて行《い》つてしまひました。その木《き》の枝《えだ》の高《たか》い上《うへ》の方《はう》には、たつた一つだけ柿《かき》の赤《あか》いのが殘《のこ》つて居《ゐ》ました。殘《のこ》つた赤《あか》い柿《かき》が高《たか》いところからお隣《とな》りの柿《かき》を見《み》ますと、まだ一つも色《いろ》のついたのが有《あ》りませんでしたから、
『どうしてお前《まへ》さんは、そんなに愚圖々々《ぐづ/\》して居《ゐ》るんですか。』
と尋《たづ》ねました。さう言《い》はれると、青《あを》い柿《かき》はまた力《ちから》を落《おと》した
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