れを『笹《さゝ》の家《や》』と思《おも》ふものもなく、扇屋《あふぎや》と言《い》つても『扇《あふぎ》の家《や》』と思《おも》ふものはありません。屋號《やがう》といふものは、その家々《いへ/\》の符牒《ふてふ》のやうに思《おも》はれて居《ゐ》るものでした。

   四三 お墓參《はかまゐ》りの道《みち》

村《むら》の人達《ひとたち》――殊《こと》に女《をんな》の人達《ひとたち》の通《とほ》る裏道《うらみち》は並《なら》んだ人家《じんか》に添《そ》ふて村《むら》の裏側《うらがは》に細《ほそ》くついて居《ゐ》ました。父《とう》さんのお家《うち》の裏木戸《うらきど》から、竹籔《たけやぶ》について廻《まは》りますと、その細《ほそ》い裏道《うらみち》へ出《で》ました。祖母《おばあ》さんに連《つ》れられて、父《とう》さんはよくその道《みち》をお墓《はか》の方《はう》へ通《かよ》ひました。
お墓《はか》へ行《い》く道《みち》は、村《むら》のものだけが通《とほ》る道《みち》です。旅人《たびびと》の知《し》らない道《みち》です。田畠《たはたけ》に出《で》て働《はたら》く人達《ひとたち》の見《み》える樂《
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