《たび》に眠《ねむ》い眼《め》をこすり/\蝋燭《らふそく》を持《も》たせられるのはお勇《ゆう》さんや父《とう》さんの役目《やくめ》でした。
末子《すゑこ》よ。お前《まへ》は『おばこ』といふ草《くさ》の葉《は》を採《と》つて遊《あそ》んだことが有《あ》りますか。あの草《くさ》の葉《は》は糸《いと》にぬいて、みんなよく織《お》る真似《まね》をして遊《あそ》びませう。お隣《とな》りのお勇《ゆう》さんもあの『おばこ』を採《と》つて來《き》て織《お》ることを樂《たのし》みにするやうな幼《をさな》い年頃《としごろ》でした。

   四二 屋號《やがう》

どこの田舍《ゐなか》にもあるやうに、父《とう》さんの村《むら》でも家毎《いへごと》に屋號《やがう》がありました。大黒屋《だいこくや》、俵屋《たはらや》、八幡屋《やはたや》、和泉屋《いづみや》、笹屋《さゝや》、それから扇屋《あふぎや》といふやうに。
笹屋《さゝや》とは笹《さゝ》のやうに繁《しげ》る家《いへ》、扇屋《あふぎや》とは扇《あふぎ》のやうに末《すゑ》の廣《ひろ》がる家《いへ》といふ意味《いみ》からでせう。でも笹屋《さゝや》と言《い》つてもそ
前へ 次へ
全171ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング