《あ》りました。祖父《おぢい》さんはいつでも書院《しよゐん》に居《ゐ》ました。父《とう》さんもその書院《しよゐん》に寢《ね》ましたが、曾祖母《ひいおばあ》さんが獨《ひと》りで寂《さび》しいといふ時《とき》には離《はな》れの隱居部屋《ゐんきよべや》へも泊《とま》[#ルビの「とま」は底本では「ま」]りに行《い》くことが有《あ》りました。祖父《おぢい》さんの書院《しよゐん》の前《まへ》には、白《しろ》い大《おほ》きな花《はな》の咲《さ》く牡丹《ぼたん》があり、古《ふる》い松《まつ》の樹《き》もありました。月《つき》のいゝ晩《ばん》なぞには松《まつ》の樹《き》の影《かげ》が部屋《へや》の障子《しやうじ》に映《うつ》りました。この書院《しよゐん》から中《なか》の間《ま》へつゞく廊下《らうか》のあたりは、父《とう》さんのよく遊《あそ》んだところです。中《なか》の間《ま》はお家《うち》のなかでも一|番《ばん》明《あか》るい部屋《へや》でして、遠《とほ》く美濃《みの》の國《くに》の方《はう》の空《そら》までその部屋《へや》から見《み》えました。祖母《おばあ》さんや伯母《をば》さんが針仕事《はりしごと》
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