下《した》のところまで父《とう》さんのお家《うち》の桑畠《くはばたけ》が續《つゞ》いて居《ゐ》ましたから、朝日《あさひ》でもさして來《く》るとお隣《とな》りの家《うち》の白《しろ》い壁《かべ》がよく光《ひか》りました。
父《とう》さんはこゝでお前達《まへたち》に、自分《じぶん》の生《うま》[#ルビの「うま」は底本では「う」]れたお家《うち》のこともすこしお話《はなし》しようと思《おも》ひます。父《とう》さんのお家《うち》は昔《むかし》は本陣《ほんぢん》と言《い》ひまして、村《むら》でも舊《ふる》い/\お家《うち》でした。父《とう》さんの幼少《ちひさ》な時分《じぶん》には、昔《むかし》のお大名《だいみやう》が木曽路《きそぢ》を通《とほ》る時《とき》に泊《と》まつたといふ古《ふる》[#ルビの「ふる」は底本では「ふ」]い部屋《へや》まで殘《のこ》つて居《ゐ》ました。部屋々々《へや/\》には、いろ/\な名前《なまへ》が昔《むかし》からつけてありまして、上段《じやうだん》の間《ま》、奧《おく》の間《ま》、中《なか》の間《ま》、次《つぎ》の間《ま》、それから寛《くつろ》ぎの間《ま》なぞといふのが有
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