ろばた》に集《あつま》りまして、燒《や》きたてのおいしいところを食《た》べるのです。
お前達《まへたち》の祖父《おぢい》さんは、この御幣餅《ごへいもち》が好《す》きでした。日頃《ひごろ》村《むら》の人達《ひとたち》から『お師匠《ししやう》さま、お師匠《ししやう》さま。』と親《した》しさうに呼《よ》ばれて居《ゐ》たのも、この御幣餅《ごへいもち》の好《す》きな祖父《おぢい》さんでした。
祖父《おぢい》さんは學問《がくもん》の人《ひと》でしたから、『三字文《さんもじ》』だの『勸學篇《くわんがくへん》』だのといふものを自分《じぶん》で書《か》いて、それを少年《せうねん》の讀本《とくほん》のやうにして、幼少《ちひさ》な時分《じぶん》の父《とう》さんに教《をし》へて呉《く》れました。山《やま》の中《なか》にあつた父《とう》さんのお家《うち》では、何《なに》から何《なに》まで手製《てせい》でした。手習《てならひ》のお手本《てほん》から讀本《とくほん》まで、祖父《おぢい》さんの手製《てせい》でした。

   四一 お隣《とな》りの人達《ひとたち》

お隣《とな》りの大黒屋《だいこくや》は酒《さけ》を造
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