のおむすびを庭《には》の朴《はう》の木《き》の葉《は》につゝみまして、父《とう》さんに呉《く》れました。握《にぎ》りたてのおむすびが彼樣《あう》すると手《て》にくツつきませんし、その朴《はう》の葉《は》の香氣《にほひ》を嗅《か》ぎながらおむすびを食《た》べるのは樂《たのし》みでした。
この祖母《おばあ》さんと言《い》へば、廣《ひろ》い玄關《げんくわん》の側《わき》の板《いた》の間《ま》で機《はた》を織《お》りながら腰掛《こしか》けて居《ゐ》る人《ひと》と、味噌藏《みそぐら》の側《わき》の土藏《どざう》の前《まへ》に立《た》つて大《おほ》きな鍵《かぎ》を手《て》にして居《ゐ》る人《ひと》とが、今《いま》でもすぐに父《とう》さんの眼《め》に浮《うか》んで來《き》ます。祖母《おばあ》さんの鍵《かぎ》は金網《かなあみ》の張《は》つてある重《おも》い藏《くら》の戸《と》を開《あ》ける鍵《かぎ》で、紐《ひも》と板片《いたきれ》をつけた鍵《かぎ》で、いろ/\な箱《はこ》に入《はひ》つた器物《うつは》を藏《くら》から取出《とりだ》す鍵《かぎ》でした。祖母《おばあ》さんがおよめに來《き》た時《とき》の古
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