》ばかりでは、魚《さかな》は釣《つ》れませんよ。』
と爺《ぢい》やに笑《わら》はれました。

   三九 祖母《おばあ》さんの鍵《かぎ》

お前達《まへたち》の祖母《おばあ》さんのことは、前《まへ》にもすこしお話《はなし》[#ルビの「はなし」は底本では「はなた」]したと思《おも》ひます。祖母《おばあ》さんは、父《とう》さんが子供《こども》の時分《じぶん》の着物《きもの》や帶《おび》まで自分《じぶん》で織《お》つたばかりでなく、食《た》べるもの――お味噌《みそ》からお醤油《しやうゆ》の類《たぐひ》までお家《うち》で造《つく》り祖母《おばあ》さんが自分《じぶん》の髮《かみ》につける油《あぶら》まで庭《には》の椿《つばき》の實《み》から絞《しぼ》りまして、物《もの》を手造《てづく》りにすることの樂《たのし》みを父《とう》さんに教《をし》へて呉《く》れました。『質素《しつそ》』を愛《あい》するといふことを、いろ/\な事《こと》で父《とう》さんに教《をし》へて見《み》せて呉《く》れたのも祖母《おばあ》さんでした。祖母《おばあ》さんはよく※[#「熱」の左上が「幸」、145−2]《あつ》い鹽《しほ》
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