栗《くり》の木《き》の虫《むし》から取《と》りました。その栗《くり》の木《き》の虫《むし》から取《と》れた糸《いと》を酢《す》に浸《つ》けて、引《ひ》き延《の》ばしますと、木小屋《きごや》の前《まへ》に立《た》つ爺《ぢい》やの手《て》から向《むか》ふの古《ふる》い池《いけ》の側《わき》に立《た》つ友伯父《ともをぢ》さんの手《て》に屆《とゞ》くほどの長《なが》さがありました。それを日《ひ》に乾《ほ》して、釣竿《つりざを》の糸《いと》に造《つく》ることなどは、友伯父《ともをぢ》さんも好《す》きでよくやりました。
斯《こ》の釣《つり》の道具《だうぐ》を提《さ》げて、友伯父《ともをぢ》さん達《たち》と一緒《いつしよ》に復《ま》た胡桃《くるみ》の木《き》の見《み》える谷間《たにあひ》へ出掛《でか》けますと、何時《いつ》でも父《とう》さんは魚《さかな》に餌《え》を取《と》られてしまふか、さもなければもう面倒臭《めんだうくさ》くなつて釣竿《つりざを》で石《いし》の間《あひだ》をかき廻《まは》すかしてしまひました。そしてお家《うち》の方《はう》へ歸《かへ》つて來《く》る度《たび》に、
『釣竿《つりざを
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